第三回ナロラボ杯 評価を終えての座談会

第三回ナロラボ杯 評価を終えての座談会

『ナロラボの小説コンテスト』の単独企画「第三回ナロラボ杯」を終えて、評価レビュアーのみで参加作品についての座談会をしました。その時の会話を作品別に掲載しています。

会話内容はブログ記事として読みやすいように編集してあります。

今回の座談会参加者はこちらの四人。

第三回ナロラボ杯レビュアー座談会参加者

ナロラボ
当サイト管理人。第一回・二回ナロラボ杯開催者兼レビュアー。普段はWeb小説投稿に役立つ情報を集めるアンケートなどをおこなっています。第三回までの企画で80作品の評価経験アリ。好きな短編小説は乙一「ZOO」です。

空伏空人
サメとゾンビを愛するB級愛好家。ヴぁんぷちゃんとゾンビくん」で第1回カクヨムWeb小説コンテスト特別賞受賞。ヴぁんぷちゃんとゾンビくん」は12月に角川スニーカー文庫から書籍化予定。ナロラボ杯では「座敷童は十七歳」で総合点21.5の評価Aを獲得。ナロラボが『この人上手すぎる、絶対書籍化する』と思っていたら既に書籍化予定で気まずいコミュニケーションをとったことがある。

フィーカス
へい彼女、俺で妥協しない?」で文学フリマ短編小説賞優秀賞受賞。今回、ナロラボが評価レビュアーとして参加してほしかった書き手さん。短編掌編作品を多く公開しており、なろうラボの勝手な印象では特にコメディが得意な印象。公開作品数は136作品を超える。「狂気はいつもきみのそばに フィーカスホラー短編集」「フィクションノート」を自費出版・電子書籍で販売中。

楠木 翡翠
今回唯一の女性作家さん。公開作品数は87作品。総公開文字数は67万文字。非公開作品を含めると109作品の小説をこれまで発表してきた。なろうに存在するほぼすべてのジャンルを書いたことがある「オールラウンダー」なので、さまざまな作品にも対応が可能。なろう暦は3年ほどだが、創作暦は8年を超える。

 

各作品に関する評価コメントはこちらからご覧いただけます

全体に関する感想

ナロラボ
皆さん今回の作品はどうでした?

フィーカス
「基本的なことができている文章力が高い作品がほとんどでしたけれど、その設定にした意味がない作品がちらほら見られた」という感じでした。 王道な話よりもオリジナル設定が光る作品が多かったですね。

楠木 翡翠
シリアスものが多かったですね。シリアスものの作品が多い私にとってはいい勉強になったような気がします。

空伏空人
全体的にレベルは高いんですけど、オチがなかったり、投げっぱなしだったり、話の締め方まで詰め切れていない作品が多かった印象がありましたね(甘口にしようとしていたのに、結果一番自分の評価がキツくなってしまった気もする)

評価に悩んだ作品

ナロラボ
ちなみに皆さん評価一番悩んだのどれですか? 僕は「幻の餃子」と「壁の間」です

フィーカス
「この勝負だけは――勝ちたい」と「女子小学生に容赦なき金玉キックを入れられ絶頂悶絶する男の話」ですかね。「壁の間」も悩みました。立ち位置的に「自分はあまり評価していないor自分ではある程度評価しているが他の人が読むと必ず評価が変わる」という感じで

ナロラボ
金玉キック厳しかったっすねえ

楠木 翡翠
私は「絶命日」と「壁の間」ですかねー

ナロラボ
壁の間はみんな悩むんですねー。

空伏空人
私は評価的な意味合いでは「イキモノを殺してみたいと思ったことのある君たちへ」に悩みました。

フルサトRadio

作品名:フルサトRadio

ナロラボ
ちなみに今回の提出作品の中に、1つだけ出版社で賞をもらった作品があります。知ってましたか?

空伏空人
フルサトradioですよね。あれ一つ、完成度が群を抜いてたのでなんかあるかなと思って調べてたんで。そしたら新紀元社長賞とってたんで、ああやっぱり。って感じでしたね

ナロラボ
読んだ後に調べたのかすごいな…空伏先生唯一のSがフルサトRadioだったんで、やっぱ分かるもんなんだなぁ。僕は企画開始直前に「受賞歴あるんですけど大丈夫ですか?」って知らされてました。それがフィルターになって厳しくつけてしまった気がします笑 元々の総合得点21だったんですけど、「受賞フィルター」を考えたくなかったので三回読み込んで粗さがし的に得点を落としてしまった気がします。そしたら皆さんA以上の配点を必ずあげてたので「すげえなちゃんと分かるんだな」って思いました
 

フィーカス
特に何も考えずに読んでました(

あれは確かにずぬけて完成度が高かったですからね。斬新さ、構成がとにかくすごかった

楠木 翡翠
モーニングスター大賞の社長賞の作品ですよね。実は「フルサトradio」は過去に何度か読んだことがある作品です。「第1回 モーニングスター大賞」はエントリーしてたので、結果発表は拝見してました。

空伏空人
もうむしろ気持ち悪かったですからね、あれ。出来が。なんで参加してるんだろう。とすら思いましたよ

喫茶店の渋おじさまと、常連ちゃん

喫茶店の渋おじさまと、常連ちゃん

ナロラボ
今回一番得点が高かったのは「喫茶店の渋おじさまと、常連ちゃん」ですけど、どうでした?
 

フィーカス
最初の数作品の時点では一番だと思いました。欠点らしい欠点が見当たらなかったと思います。

空伏空人
あの作品は確か、イラストを見てから書いた突貫系だった覚えがあります

ナロラボ
何が一番すごいと思いました?僕キャラ演出かなぁって思うんですけど

空伏空人
僕は作者自身の特徴でもある、安定した『ゆったりとした雰囲気』の演出ですね。喫茶店っていう舞台とよく合ってた

楠木 翡翠
私も同じです。作者さんの作風である「ほのぼのとした雰囲気」?っていうんですかね

ナロラボ
フィーカスさんはどうでしょう?

フィーカス
キャラクターももちろん良かったんですが、「喫茶店はただコーヒーを飲むところではない」という筆者の伝えたいことが明確だった点が個人的には良いなと感じました。

天使と殺人鬼の夜

天使と殺人鬼の夜

ナロラボ

なんか「この作品の文章がすごい!」とかあります???難しい要求なんですけど

  

空伏空人

個人的に「天使と殺人鬼の夜」のこの文章を取り上げたいです。

天使は、非現実的な存在である。これはまあどうも主観的な感じがするけど、感覚的に理解してくれればそれでいいかな。結局、これは一から十まで感覚的な話だし。

非現実的な存在に託す願い事、って何が考えられるかな。元の状態と、願い事それぞれに良い悪いが、あるとすると、

元からいい状態にある人が、さらに良くなるための願い事。

元からいい状態にある人が、悪い状態になるための願い事。

元は悪い状態にある人が、いい状態になるための願い事。

元は悪い状態にある人が、さらに悪くなるための願い事。

の四通りが考えられるよね。

願い事は良い状態になるためのものであることが普通だから、一番目と三番めが生き残る。で、悪い状態を脱したい、と言う願いと、良い状態からさらに良くなりたい、っていう願いだったら、前者の方が一般的には強いはず

(出典:天使と殺人鬼の夜)

空伏空人

すごい文章っていうより、好きな文章なんですけど。

ロジックを無駄に考えるミステリって感じで好きです

フィーカス

「天使と殺人鬼の夜」は天使の存在意義が(

あの設定さえ活かせていれば……話の作りこみとか、ロジックとかは良くできていたのに……

  

空伏空人

自分の考えですけど『天使に願う』ことは必要なかったので、天使が話に関わる必要はなかったと思いますけどねえ。『なんでも願いが叶う存在』がいて『じゃあそれになにを頼むよ?』という、願いの部分に注視してる感じでしたし

 

ナロラボ

やっぱり設定の詰めが甘い感じだと思いますか?こういう設定を上手く生かしてる小説とか他所だとあります?商業作品でもいいんですけど。

空伏空人
『万能の存在』が実際に話で有効活用されてるのだったら、やっぱり森川智喜の『スノーホワイト』ですね

ナロラボ
知らない作品です。どんな話なんですか?

空伏空人
白雪姫に出てくる『聞いたことをなんでも答えてくれる鏡』をミステリにぶっこんできたとんでもない本格ミステリです。本格ミステリ大賞とか取ってる

ナロラボ
めっちゃ面白そうですね。

空伏空人
利用方法が頭おかしいんでおススメですよ(シリーズものだから、前作のキャットフードを読んでからの方がいいかもだけど)

ナロラボ
なるほどぉ。

天使に話戻ります。個人的には「何でも願いを叶えてくれる非現実的存在」というありがちなテーマの揚げ足をひたすら取り合って、会話で頭を使わせるところが面白い作品だと思いました。なので設定は別に生かせてないっていう印象はなかったんですよね

別に天使じゃなくて「ランプの魔人」でも「桃太郎の桃が流れてくる川」でも、作者さんは同じような話作れるんじゃないかな

 

空伏空人
まあ、あれはあくまでも『そんなものがいたとしたら?』が『本当にいた』程度のやつですからね

ナロラボ
フィーカスさん的にはちょっとズレてます?

フィーカス
「天使に『死んでくれ』とお願いする。死なないなら『人間になってくれ』とお願いして物理的に殺す」と言ってますから、そこまで行ってほしかったですね。欲を言うならその願いに対して天使がさらに上回る回答を出す、とか。

ナロラボ
ああ。あれが具体的に出てきたらたしかに面白いかも!!!! なるほどなぁ。短編作家らしいオチの付け方ですねえ。ただ、作者さんのやりたいこととは違う気はしますけどね
 

空伏空人
話が別の方向にズレてしまいますからね。私もあんまりおススメは出来ないと思います

楠木 翡翠
確かにズレたりする可能性はありますね
  

フィーカス
うーん、なんでしょう、本人の書きたいことと読者が期待していることがずれるんじゃないかと。「うわ、そういうことだったのか!」というより、「え、これそういう話なの?」という感じになるんじゃないかなと思ったわけです。

ナロラボ
でも、そのカバー版の小説は読んでみたい!普通に面白そう。なるほどなぁ。そういう読み方もあるのかぁ

エレクトリックホイール・オブ・フォーチュン

作品名:エレクトリックホイール・オブ・フォーチュン

ナロラボ

楠木 翡翠
最後にエントリーした作品ですね

ナロラボ
はい。これはきちんとリメイクすれば評価A取れると思ってます。ウチの企画は同じ脚本を二回出せないので無理なんですけど笑

フィーカス
この作品は「個人的には読んでもあまりよく分からなかったけれど、他の人が読んだら面白いのかもしれない」という印象でした。ちょっと設定が甘かったかな? と。

ナロラボ
感想欄で「作者さんが書きたいことだけ書いてる」って空伏先生が書いてたんですけどまさにそこが問題だと僕も思ってます
 

空伏空人
この作品、まずはリニアの仕組みを作者が本当に理解しているのか? というのが気になったのと、作者の頭の中をそのまま吐き出してる感じで、状況理解が出来ない。というのが大きかったですね
 

楠木 翡翠
あの作品は少しもったいないと思いました。専門用語がよくわからなかったですし。

ナロラボ
そうなんですよ。カッコいい単語を並べて走らせてるのはいいんですけど、設定が作者の脳内映像で完結してしまってるんです。前半は読みやすいんですけど
 

フィーカス
短編は文字数が少ないですから、いかに設定を読者に分からせるかが鍵になるんですよね。そういう点では、特殊な用語が多かったり、設定が複雑だったりすると不利になるかな、と
  

楠木 翡翠
少しでも説明があれば分かりやすかったかもしれませんね。

ナロラボ
後半は「機械がどう動いたか」しか書いてなくて、風景が全く見えてこないんですよ
 

空伏空人
解説っていうより、なんでしょうね。「順序立てて書く」のが出来ていない。ですね。単語自体はすげぇカッコいいし、脚本も短編向きなんですけど「作者しか知らない情報で作者の脳内だけで考えてる映像を、魅せ方を考えずに投稿してる」感じです
  

楠木 翡翠
ほぼ「ノリと勢い」で書き上げた印象が強かったです。

ディザスタ

作品名:ディザスタ 

フィーカス

リニアバイクの話で思い出したんですけど、「ディザスタ」も傾向的には近いですかね。あちらはキャラクターである程度カバーされているかと思いますが

楠木 翡翠
あっ、最後が甘い展開の作品です
  

空伏空人
ディザスタはネタは良いの揃ってるのに、途中の展開が少し早いのと、ジャンルを『混ぜる』んじゃなくて『順番に並べてる』だけになってしまってるのが非常に残念で惜しかった

ナロラボ
でも人気あるんですよね。TL見ると。個人的にディザスタは冒頭一話なければもっと読みやすくなると思うんですけどね。
 

空伏空人
いや、いりますよ
  

ナロラボ
ええ!?そうですか?
  

フィーカス
(少し時間を置いて)読みなおしましたが、無いと後の話が意味不明になると思います。多分、短編単体で世界観が分かるようにいろいろ説明を入れたんでしょうね。設定が少々詰め込み過ぎというだけかと。

空伏空人
少し短くしたらいいぐらいですかね。はい。
  

楠木 翡翠
これまでの経緯とかの関係で私も必要だと思いましたね。

空伏空人
あれの場合は単純に『SFガジェットの説明不足』と『SF×恋愛が出来てない』のでそういういみでは『絶対一話二話抜けてる』って状態が惜しいってだけですよ。

ナロラボ
一話二話が抜けてる、はそのとおりかもしれないです。一話目が必要なのはわかるんですよ。でも「設定を説明するシーン」としてふさわしくない印象です
  

フィーカス
文字数カツカツなので、前半の説明を削って不足している部分を補足するとちょうどよかったかもしれませんね。

ナロラボ

冒頭を一文目から引用しますね。

  

「災難だったな!」

その日、宴席で顔を合わせた第一声は、全員もれなくこの一言だった。

続く同情と労いの言葉には、どことなく嬉しそうな声音がにじむ。ざまぁみろ、とでも言うような。

それを俺が言及すると、「当然だ」と頭をこづかれた。

「あんな強気の業績予想出しやがったときから、ずっと見たかったんだ、お前のこーんな顔。下方修正で『ほらみろ』っつってやるつもりだったのに……ったく、かわいくねぇ決算出しやがって」

「ああ、低能経営者どもの、見苦しい嫉妬か」

相手は全員数世代上だが、数年来の付き合いでこの会合にすっかり馴染んだ俺は遠慮なく呟く。

今度は肩甲骨の下にヒジが入った。

いつもどおり末席に座ろうとした俺は数人かがりで引き止められて、むりやり奥の席へと押し込まれる。半透明の水色薄膜――防音フィルタが個室の内側を覆う。しまった、退路を絶たれた。

ナロラボ
映像が浮かんでこないんですよ。だから読みづらい。この冒頭は絶対に、作者の頭の中で話が完結している。映像を文章で読ませる工夫が足りていない気がします

空伏空人
ああ、まあ。そこはそうですね
 

フィーカス
そこら辺は「ここは一体どこなのだ」ってなりましたね。  

空伏空人
というか、冒頭に限らず全体的に映像が浮かびにくい。直そうと思えば簡単に直せるとは思いますけど

フィーカス
SFは描写不足が命取りですからね

楠木 翡翠
確かに、イメージがわきにくいですね。

ナロラボ
SFってただでさえ用語が独特なんだから、視覚表現が分かりづらいものを選んだら人を選ぶよなぁと思います。

拡張現実モノの冒頭だと、「アクセルワールド」の一巻の冒頭2ページは神的な出来なの参考にしてほしいですね。ラノベなので作者さんのやりたいこととズレるかもしれないですけど、設定込々な世界観をわずか二ページで分かりやすく表現してます。

どんな流れか大雑把に説明すると

仮想黒板の右端に、メールが点灯した。→これは私にしか見えていない映像だ→いじめっ子からのメールだった→「給食を食堂からとってこい」とパシリ的扱いを指示される

これだけで主人公のキャラと世界観と舞台が未来の学校だということが分かる。

に、対してディザスタはいきなり複数人物登場でどこに焦点当てればいいのか分からない。そのうえ複雑な設定。たぶん最初に「浮かんでいる映像エフェクト」の話から始めて視覚描写だけで未来だと理解させてから……みたいな流れの方が分かりやすいはず

フィーカス
人気があるのは、やはり後半の話が良かったからでしょうね。あとキャラが(ry

楠木 翡翠
最後の甘い展開のシーンの話……

フィーカス

一応、あの設定じゃないと成り立たないようにはなっているみたいですが、確かに最初の方の設定、あまり頭に入ってきませんでしたね。

この勝負だけは――勝ちたい

作品名:この勝負だけは――勝ちたい

ナロラボ

SFではありませんが、複雑な世界観というか「用語盛りだくさん」なのに「分かりやすい」のが「この勝負だけは――勝ちたい」  

将棋が全く分からない人間にも「将棋をしている」ことが分かるように盤面の将棋用語じゃなくて、汗と空気と時間の迫り具合だけで試合を描写するのは上手いなと思いました。

 

空伏空人
主な登場人物を一人に縛って、一つのことに集中していたので、分かりやすいですね
   

ナロラボ
そうなんです! 短い短編の場合、それぐらいが丁度いい。無駄な登場人物がいない。キャラを消費して楽しむタイプの長編小説とは違う。

今回総合評価Aを取ってる喫茶店とかこの勝負に勝ちたいもフルサトRadioも全部人数絞ってますから、キャラを絞るのは重要だと思います。

 

フィーカス
主張や読者が書きたいことが伝わる話は好感が持てます。短編で大人数はかなり特殊な話じゃないと難しいですよね。
 

この美しい世界で

ナロラボ
粗が多いなと僕が思ったのは「この美しい世界で」です。「作者さんが脳内で考えている映像」はきっといいんでしょうけど「リアリティ」をどっちに寄せるのかが徹底できてない気がします。なんていうか「ポニョ」みたいな感じにするのか、「アイアムアヒーロー」にするのかをまず練ってからにしないと

フィーカス
あまり設定が活かせてないと思った作品の一つです。
 

空伏空人
印象は「エレクトリックホイール・オブ・フォーチュンと近いですね。作者が『残酷だけど美しい世界』を書きたいというのは十二分に伝わりましたがいかんせん、崩壊している雰囲気が上手く演出できていない
 

ナロラボ
うん。そうなんですよ。例えば、世界崩壊から二週間が経っていて、旅だったときに見つけた家を発見するときの一人称が「ちょうどいいところに」は絶対おかしい。緊張感がない
 

フィーカス
舞台が悪かったんでしょうね。山の中だと退廃していく様子を表しにくい。木が倒れまくってるだけだとあれだし。

空伏空人
山奥だから、百メートルの津波に遭わずに助かった。

ナロラボ
山、はちょっと「あまり作者が考えずに津波から逃れられる方法」をポッと出した気がしますね

空伏空人
あれは長野県とか、そんな奥地の山奥なのか。それとも、手前の方にある山奥なのか。ジジババがその日のうちに家を出たんですから、多分、前者であろう。とは思いますけど あるいは、山の上まで都市が開発されているか。

フィーカス
自然がいっぱいなのでそうではないのでしょうか。
 

ナロラボ
世界崩壊を「アイアムアヒーロー」的に書くのであれば、山よりも「都会がぶっ壊れていく」のを描くのが映像的に分かりやすいと思いますけどね

空伏空人
具体的なものを一つだすだけで良かったんですけどね。水没モノの場合「日本以外全部沈没した。」とか
 

ナロラボ
まさに僕もそう思います。もっとざっくりでいい。どっちかっていうとこの作品は「もっとリアリティを落としてファンタジーにしてほしい」って思うので「日本以外全部沈没した。バイバイ。私は家を出ることにした」くらいでいいと思います。「店員さんのいないコンビニには食べきれないくらいのお菓子が取り放題で、私はリュックいっぱいに詰め込むことができた、世界崩壊、最高」みたい

フィーカス
結果的に、いろいろと中途半端になってしまった。

空伏空人
私が気になったのは、状況描写よりも、どっちかっていうといじめっ子の話なんですけど
 

フィーカス
私もよく分かりませんでした。あんな狂気を帯びた人だったらその場から逃げ出すでしょ。

空伏空人
泊まるか泊まらないは別段どうでもよかったりするんですよね。非常時ですし。ただ、あの流れなら普通仲良くなるだろう。なんで急に首を絞めてくるのか、とかの理由付けになる描写がなく唐突な印象があります。お祖母ちゃん死ぬの決めるの早過ぎないか、とか。

ナロラボ
とにかく「細部まで練れてない」印象は強いですよね

空伏空人
リアリティは出してもいいんですこの作品の場合。ただ、出すならきちんと出してほしかったです。。リアリティは別に『リアル』である必要性はなくて、いじめっ子の思想をきちんと書いていれば、普通に理解してもらえると思いますよ。突発過ぎただけだと思います

ナロラボ
ああなるほどなぁ。すべてが「構成を考えず物語を展開するために思いつきで並べている」感はあるかもしれない

空伏空人
ただ、こういう類の作品って、一歩間違えると評価ガタ落ちしちゃうんで、本当に気を使う必要あるんで私絶対書きたくないです(100点かゼロ点ですよ)難しい題材ですよね

シルバースノウにありがとう

作品名 シルバースノウにありがとう

ナロラボ
時間的に次でラストかな。最後、シルバースノウにありがとう 
 

空伏空人
 お、シルバースノウ。ラストちょい惜しいと思いました。
 

ナロラボ
公式のコンテストで賞取ってる二人の評価がすごく高くて、私と翡翠さんが微妙な感じ
   

空伏空人
個人的面白かった文章ナンバーワンです

 

フィーカス
個人的には良かったと思うんですけどね。
 

ナロラボ
申し訳ないですけど全然良さを理解できていないです。。。
  

楠木 翡翠
申し訳ないですが、いろいろと物足りなさがありすぎて……

ナロラボ
個人的には「村上春樹のモノマネ」みたいな文章を意味なく散りばめて、文章がくどくなってるように感じたんですけど、Twitter上は評価高い人がそれなりにいましたよね。二人の評価も高くてホントに不安です。僕の読みが浅いのかもと 

フィーカス
やっぱり銀雪の正体がいまいち……という点はありましたが。短編としては綺麗にまとまっているのではないかと思いました。1回目読んだ時と2回目読んだ時で印象が変わる点もおもしろいと思いました
  

空伏空人

自分が良いと思った点の一つが「文章を面白くする工夫」に一生懸命取り組んでいること。そして二つ目が「物語が破綻していない」。そして最後に三つ目。『もう少し足したらいいのに』はあったけど『足りない』はなかった。これが、高評価の理由ですね。ただ自分の評価が高い理由の一番は「文章の面白さ」が投稿作品の中で群を抜いていたことが決め手です。

 

楠木 翡翠
ああ……なるほど…… 

フィーカス
今回、設定の意味が希薄だったり、構成や説明に過不足が多かったりする作品が目立ちましたから、丁寧に話を作っている作品は印象がよくなりましたね。最後まで正体を明かしていない点は正解だと考えています。

ナロラボ
僕は、「現在時間の主人公が女性に向かって昔話をする」という形式だったはずだったのに途中で「主人公の語り口が過去時間の人間になっている」のがどうしてもダメでした

楠木 翡翠
私も同じです……

フィーカス
そこは確かに気になりました。でも、正直大きな欠点は「それだけ」なんですよ。欠点らしい欠点、あんまなかったですね
 

空伏空人
こういう語りが面白い小説って、たまに出てくるんですけど、そっち方面に意識を向けてみると面白く思えますよ。これは商業作品でいうと「埼玉県神統系譜」とかそういうタイプのやつです

で、無事に祖父母の家に到着した。たしか、お昼過ぎだった。前に来た時から既に一年以上経過しているのだけれど、相変わらずの古びた一軒家。それだけの理由で、僕の心はもう、ウキウキである。

ナロラボ

でもやっぱり個人的には分からない文章が多かったです。こことか語感はいいけど、何がどうウキウキなのかが分からなかった

空伏空人
古びた一軒家って、ワクワクしません?>田舎のばあちゃんちの、瓦屋根の家とか。

フィーカス
都会のアパートやマンションになれていると、田舎の一軒家はウキウキしますね
 

ナロラボ
なるほど……

空伏空人
ばあちゃんちの無駄に長い廊下とか、仏壇がある部屋とか。いつもと明らかに違う感じがすごくワクワクします

子供だ。

更に距離は縮まる。

女の子だ。

更に距離は縮まる。

白い服を着ているようだ。

更に距離は縮まる。

おかっぱ頭だ。

更に距離は縮まる。というか、もう目の前だ。

白い服に見えたものは、白い着物だった。初めて見る。

楠木 翡翠

「更に距離は縮まる。」という描写はたくさんいらないと感じました。

 

ナロラボ

そこは好き。「縮まる。」の文章は僕は好き。ただ、「意味はない」気がする 

空伏空人

「縮まる。

もっと縮まる。

更に縮まる。

すぐ近くだ。

もう息が聞こえてくるぐらいだ。」

みたいに、文を変えてみた方が良かったかもしれませんな。そこは。

そういう無駄な羅列は好きだけど

 

フィーカス

表現としては、まあアリかなーぐらいにしか考えていませんでしたが。あー、確かにそこは「もう少し書き方なかったのかな」とは思いました。

ナロラボ

なんていうか「語感がいい言葉を並べるのは得意だけど、それが物語を展開するうえでどう効果的なのか」があんまり考えられてない印象があるんですよ。だから私の感覚ではくどく感じてしまう。

空伏空人
たのしいんですよ、こういう無駄をつけるの

楠木 翡翠
それと…

「ようこそ」

雪が切り出す。そして僕は……耳を疑う。

「私の家へ」

疑いきれなかった。まぎれもなく、彼女はそう言った。冷たい風が吹きすさぶ。

楠木 翡翠

「そのあとはないの!?」という感情が芽生えた時には、もう現在に戻ってるところに納得がいかなかった。

空伏空人

楠木さん。そこは分かる。もう少し足したらいいのに。

 

楠木 翡翠

そうですね。少し足りないんですよー

フィーカス

確かに、唐突に現在に戻っているのは違和感ありましたね。

 

空伏空人

なくてもいけるけど(ギリギリ)、足した方が面白くなる部分でしたね

楽しい時間というもはあっという間に過ぎてしまうもので、昔の科学者(ええと、何ていう名前だっけ?)はそれを『相対性』とかなんとか言ったらしいけれど僕にはよくわからない。わかるのは前半部分だけだ。感覚的にはわかるのに、理屈で説明ができない現象のいい例である。

ナロラボ

こことか、文章自体は面白いんですよ。面白いんだけど、この文章があることによって物語の展開において何が効果的なのかが全く分からない。この文章を面白いと感じるのは「好み」だと僕は思ってるので「語感の良い言葉を並べるのが得意」選手権なら僕は優勝だと思うんですけど、作者が思いつきの文章をひたすら並べてる気がどうしてもしてしまう

 

フィーカス

その文章があることによりマイナスになる、ということは無いですよね。

そういうふうに、かなり細かいところを突っ込まないと欠点らしい欠点がないんですよ。そこらへん突っ込みだすと、大半の文章に突っ込みが入る気がするのです。

空伏空人
「楽しい時間というものはあっさりと過ぎ去っていく。フランケンシュタインみたいな名前の物理学者はそれを『相対性』なんとかと名付けたらしい。感覚的には理解できるけど、理屈で説明できない現象の良い例だ。」ぐらいで良くはある。ただ『長いけど語感がいいからすらすらいける』というのは、かなり高評価なんですよね
 

ナロラボ

なるほどなぁ

 

空伏空人

そしてこの小説の場合『女の人(雪)に昔どれだけ楽しかったか』を話している部分でもあるので、「ムダに饒舌になってる感じ」を演出できているのがいいですよね

ナロラボ
うーん好みなのかなぁ。私の個人評価は全部2.5点以上なので減点はないんですよ。「加点」ができなかったんですよ。たぶん私の評価軸が「文章量に対してどれだけ分かりやすくたくさんの意味を入れられたか」だから合わなかったんだろうな
 

空伏空人
ムダのない文章が好きなんですね
 

フィーカス
私もあまり無駄な文章はいれたくない人ですが、そこまでこの作品に無駄な情報があったとは思いませんでした。もちろん満点の文章とは行きませんが、ストーリーに破たんがなく、設定に過不足があまり見られない点は高評価だと思うのです。
 

空伏空人
自分は結構無駄が好きですね。無意味なやつは嫌いですけど。

楠木 翡翠
私は作風にもよりますが、両方ですね。
 

最後に

結構好き勝手に話しているので全ての作品について話せたわけではないのが申し訳ないです。本当に今回は好みが分かれる企画だったので評価の仕方の違いが会話でもろに出ました。
第三回の座談会記事は参加者も交えたものを、近日中にもう一つ公開する予定ですので、よろしくお願いします!

各作品に関する評価コメントはこちらからご覧いただけます