Web短編小説「星空 めろりんきゅう!」に学ぶ 「キャラクターを地の文で説明しない書き方」

Web短編小説「星空 めろりんきゅう!」に学ぶ 「キャラクターを地の文で説明しない書き方」

※これは第二回評価シート付き小説レビュー企画におけるナロラボ賞の小説紹介になります。

皆さんこんにちは!

今回は「第二回 評価シート付き小説レビュー企画」の参加作品
恐怖院怨念 さんの星空めろりんきゅう!
を参考に「地の文でキャラクターを直接説明しない」短編小説の書き方について書きたいと思います。(以下、めろりんきゅうで紹介を統一)

「地の文でキャラを直接説明しすぎてしまう」「小説がキャラクターの掘り下げパートと世界観説明パートがはっきりわかれてしまう」という悩みを持っている方、というよりもまさにそれが当てはまるこのサイトの管理人の勉強になるよう記事を書きました!
※この記事は「星空めろりんきゅう!」のネタバレを含むものになりますので、ネタバレが嫌な方は先に小説を読むことを推奨します!
※この記事を書くにあたり、恐怖院怨念さんから完全ネタバレOKの許可をいただいています。

今回のポイント

個人的に短編小説を書くことの難しさは
・視覚・状況描写
・物語の進行
・キャラクターの掘り下げ
・世界観や設定の説明
を文字数制限がある中で同時進行にやらなきゃいけないところだと、僕は考えています。

特に難しいのが小説ではビジュアルで見せることができない「キャラクター」をうまく区別して短編で描くこと。

長編なら、「キャラクター掘り下げシーン」「状況説明・心情描写シーン」に分けて書けばなんとかなりますが、物語の進行に関わりのない無駄な描写を減らさなきゃいけない短編小説ではそれはできません。
※個人的には長編でもあまり良いやり方だと思っていません。

これを「星空めろりんきゅう!」は全体を通して上手く解決しているように私は感じました。

冒頭

生まれてはじめて彼氏ができた。私には一生できるはずないと思っていたのに。
とっても格好よくて優しい彼。
けど、とっても恥ずかしい事を言ったり、やったりするのが困りものだった。

「桜子ちゃん。今日も愛してるよっ!」

人通りの多い公園のど真ん中。幹人くんは真夏の日差しをものともしない、この上なく爽やかな笑顔で、私の肩を掴んで絶叫する。

特別目を惹く美しい文章だったり、意外性のある面白い冒頭ではないんですけど、
かなり練られた書き方だと思います! というか、これはむちゃくちゃすごいんです。

一行目

生まれてはじめて彼氏ができた。私には一生できるはずないと思っていたのに。

この文章、普通に読むと「主人公に彼氏ができた」ことしか説明していない文章なんですけど、物語の一番最初にこの文章があるだけで物語を進行するのがかなり楽になります。

この文章が持つ物語的役割は大きく考えて三つ。
・「彼氏」「私」という言葉を使うことによって物語が女性の一人称であることを明確にする。
・これから小説に「キャラクターが二人以上」出てくる or 彼氏に該当する人物に関する話をしても唐突には感じさせない。
・「生まれてはじめて」「私には一生できるはずない」のダブルコンボで主人公に「気弱で自信のない恋愛経験の少ない女の子」という人物像を付与する。

※これ怒られそうなんで入れるか迷ったんですけど「生まれて初めて」ということばを使っていることから語り手が10代~20代であることが予想できるなーとも思いました。

ここでライトノベル作家の「葛西伸哉」さんがツイッターで「スレイヤーズ」についてのお話をしていたツイートを引用します。

 

さすがに「スレイヤーズ」ほどの際立った文章だ、と説明するつもりはありませんが「めろりんきゅう」の冒頭もある程度似たような技巧を感じました。主人公がどんな人物でどういう文体で、というのがわかりやすいですよね。

二・三行目

とっても格好よくて優しい彼。
けど、とっても恥ずかしい事を言ったり、やったりするのが困りものだった。

これは一見すると「彼氏についての説明オンリー」に見えますが、どちらかというとこれも「主人公のキャラクター説明」の意味があります。

突然ですがここでみなさんに質問です。

この世界の人類が「松岡修三」さんとあなたの二人しかいなくなったとき、どっちが冷めている人物だと言えますか?

ほとんどの方は「自分だ」と答えると思います。つまりその世界ではあなたは「冷めていてテンションの低い人間」だという人物像が付与されます。

今のは極端な例ですが、何が言いたいのかと申しますと基本的に「物語におけるキャラクターの個性は相対評価でしか説明できない」ってことなんですね。

今この時点で、「めろりんきゅう」の世界に存在する人物は「彼」と「主人公」の二人しかいません。
その主人公が「とっても恥ずかしいことを言ったり、やったりする」と相手のことを説明した瞬間に主人公には「おとなしい」というキャラクターが付与されます。
一人称で主人公のキャラを上手く立てたいと思ったら「とにかく他人についてしゃべらせろ!」というのはアリな手だと思います。

こうして読者に違和感なく「おとなしくて真面目な女性主人公の一人称で、へんてこな男性キャラクターの説明が始まるぞ~」という心の準備をさせているんですよね

そして四行目に突入(改行は含めてません)

四行目

「桜子ちゃん。今日も愛してるよっ!」

ここで「主人公」の名前が明かされます。早い段階で主人公の名前を明かすことに成功します。

このセリフ、三行目までの前フリがあること+「桜子ちゃん!」という女性らしい名前を発言することで「ほぼ絶対に読者が発言者が主人公ではなく噂の彼である」と読者が認識できます。

またずっと独り言が続いていた小説のカメラが変わることにも、この一文で成功します。
この後読むと分かるんですけど、めろりんきゅうは「主人公の思考→通常の描写」に移るスイッチとして幹人くん(噂の彼)のセリフをよく入れています。「他人のセリフ」が急に聞こえてくる、というのは場面転換として便利ですよね。

とにかくこの作者さんは必ず一文に「状況説明+α(アルファ)」以上の意味を持たせる文章を書くことを意識している方です。

しかし、ここまでなら「たまたま」という可能性もあったのです。しかし、それがよく分かるのがとどめの五行目。

五行目

人通りの多い公園のど真ん中。幹人くんは真夏の日差しをものともしない、この上なく爽やかな笑顔で、私の肩を掴んで絶叫する。

確信犯だということが分かります。

・季節は夏で、場所は人通りの多い公園。主人公と彼氏が二人でいるという視覚情報まで読者に与える。

・彼氏のキャラクター名を自然に明かす。

・人通りの多い場所でも恥ずかしいセリフを「絶叫できる」ということから
「まわりのことを気にせず自分中心に動き回れるテンションの高い人」だと説明できる。
※しかも、この極端な性格は後々伏線になってくる。

これだけの濃い情報を一気に伝えます。狙って書いてなくてもおそらく「意識しなくても一文の役割を二つ以上持たせる文章を書く」習慣がついている作者さんであることは間違いないですね。しかもこれだけの情報量があるのにすごく読みやすい。

ここから会話劇とキャラクターの細かな仕草や表情の動きを使って、コミカルな状況描写+二人のキャラクターの掘り下げ」を常に行う文章が続きます。
「彼はこういう人だ!」とか「あの人は変な性格だ」とか言わないのです。
全部映像が思い浮かぶような行動を描写するだけで、読者にキャラクターがどんな人物なのか予想できる書き方をします。

私は幹人くんの胸の中で力いっぱいに抱きしめられ、酸欠しそうになるまで我慢して、ようやく手をつっぱって彼の身体を離し、二、三度深呼吸をした。

特にこの文章がすごすぎる。

酸欠しそうになるまで我慢しちゃう主人公のおとなしさ」と「強く抱きしめすぎちゃう幹人くんのめちゃくちゃなテンションと主人公大好き具合」を同時に説明し、加えて「なぜそんなに強く抱きしめられる筋力+人間にとって適切な力のかけ具合に調整できないのか」が物語の後半の伏線になるんだからほんとにすごい。

 

私は顔を真っ赤にして声をあげ、どっと疲れて両肩を落とした。
もう。ほんとに困った幹人くん。
けどしょうがない。しょうがないよね。
こんな感じだけど、私は彼のことを大好きなんだから。
ああ、恥ずかしい……。


こうして「テンションの高低さが激しいバカップル」という強烈なキャラクター二名を読者の脳内に焼き付けることに作者は成功しているんです。
めちゃくちゃな話なんですけど、すごくテクニカルなんですよね。

中盤

中盤からは「ギャップ」を作ることで、作者さんは「幹人くん」というキャラクターに深みを作っています。ぶっちゃけごめんなさい中盤のキャラについてはちょっと説明少ないです。どっちかっていうと中盤は伏線と構成的な部分に力注いでる気がします。

人見知りでしゃべるのが苦手で、いつもクラスのはじっこにいて、外では木陰に隠れて本ばかりを読んでいるような目立たない私に。

こんな主人公に対して幹人くんは、どうなのか。

しかも、その彼はクラスの人気者で、格好いいし、頭もいい。もし私が人見知りじゃなかったら、告白をしていたかもしれない、密かな憧れの人だった。

これで物語を進行させると共にこんなにクラスカーストに差がある人物が突然告白してくるんだから、何か特別な理由があるに違いない」と読者に予想させます。
予想できなくても、ここから雰囲気が「だんだん不穏」な感じになっていくのです。

そして、読者の不意をつくとんでもないアイディアが登場。

 付き合いはじめてもうすぐ一ヶ月。
 私たちは相変わらずのバカップル(泣)っぷりだったけれど、私は彼と付き合ってみて、一つ、妙なことに気づいてしまった。
 というのも、彼はすごいミステリアスで。
 昔のこと――幼稚園や小学生時代のことはおろか、中学の頃のことも話したがらないし、家族もまるでいないかのような素振りを見せる。そしてなにより……。
 彼の右腕。
 肘から手首にかけて、脈の通る線に沿ってクッキリハッキリと、なんと――。
 ファスナーがついているのである。

何それ。面白そう。

上手いですよね。ジャンルスイッチがスタート。ここで変に「スイッチ」とか「ボタン」だとシリアスすぎて物語の雰囲気に合わないうえ後々の展開がバレやすいんですけど、「ファスナー」ってところが物語のテンションを崩さずにこれまでの主人公に「ギャップ」を生み出しました。
あと「ぶらぶら」の描写がすごくいいんですけどキャラクターと関係ない気がするので飛ばします。

※ただ「ファスナー」「流星群」あたりは「パッとひらめいた・おりてきちゃった系アイディア」な気はしてます。けどセンスがめっちゃいいので好きです!直さないでほしい。

その後の小説家うんぬんのところで伏線を貼ってますね。こうして幹人くんに関する謎を膨らませたまま終盤へ。

クライマックス


「実はね。キミが気にしているこのファスナーにも関係があることなんだけど――。僕ね、未来から来たって言ったら信じてくれる?」
「……え?」

もはや感想文なんですけど、ここは鳥肌立ちましたね。
幹人くんが「主人公がファスナーの方ばかりみていることにずうっと気付いていた」っていうのは、ちょっと怖さすらありました。作者さんが
普段ホラーを書いてる方っぽいので、ギャップの作り方が上手いんでしょうね。

「未来はとっても悲惨でね。独裁政権に言論の自由は奪われ、飢餓や大気の汚染、大規模な戦争もあって。けど、どんなに苦しい戦いの中でも、僕はキミのその前向きな作品を読むと幸せになれて、いつも救われていた」

こうやって幹人くんの高すぎるテンションの裏付けをとってから、機械の腕のネタ晴らし。
あまりにズレているテンションの高さと調整できていないパワーは未来の世界のせいだっていうことで、キャラクターにリアリティを作りました。

そこからバババーッていう怒涛の展開と「やあ」以降の流れもめっちゃ好きなんですけど、割愛。
いやぁすごい。ちょっと展開は早いと感じる人がいるかもしれないですが、完璧でしたね。

まとめ

と、まぁ色々書いたんですけど「冒頭でキャラクターを自然に理解させてから、色んな手段を用いてギャップやリアリティを作る」っていうのがすごかったなぁという作品でした。

ただ、この作品のすごいところってそれだけじゃ全然ないんだよなぁとも思います! みなさんも読んでみてください!

星空めろりんきゅう!

こうやって「自分が考える小説の良さ」みたいなのを言語化するのってすごい勉強になったので、こういう記事今後も作っていきたいと思います。

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