【ラノベ感想】MF文庫Jの問題作「図書迷宮」の面白さを4つのポイントで解説する

【ラノベ感想】MF文庫Jの問題作「図書迷宮」の面白さを4つのポイントで解説する

今回は新人ライトノベル作家
十字 静」さんによる新作ライトノベル「図書迷宮」の紹介記事です。

未完結で規定応募枚数を使い切った作品なのに、
応募総数423作品のライトノベル新人賞の最終選考に残ってしまう

編集部と共に約三年かけて物語をブラッシュアップさせて発売が決定
新人作家の作品だが、超大手レーベルMF文庫Jで最長の520ページにもおよぶ超大作として発表

もう、これだけの情報で「なんかヤバい作品」だと誰もが感じますよね。全国の中学生が「俺もラノベ作家になるなら、こんなデビューの仕方してみてえよ……」と言いたくなるような作品だと思います。

当サイトはWeb小説を中心に扱うサイトですが、あまりにも内容が気になったので管理人が発売日に購入し、四つのポイントに分けて感想を書くことにしました!

内容の大きなネタバレはできないので、個人的に作品のすごいと思った点についてピックアップするやり方を取りたいと思います。
言っておきますがアマチュア創作者の方が読むと「創作に対する自信を失うレベル」の傑作だと思いました。面白過ぎて鼻血が出る……

ポイント① ゲームをプレイするかのような没入感を味わえる「二人称小説」

まずは、作品の冒頭をご覧ください。

あなたは、走っていました。
「はぁっ……! はぁ……!」
あなたは、逃走していました。
MF文庫J 十字 静「図書迷宮」 p.11

目にした瞬間に衝撃を受ける「あなたは」という言葉。
そう。この作品はライトノベルどころか小説ではほぼ「禁忌」のような扱いになっている
二人称小説」です。

小説創作のハウツー本でも「二人称小説はおススメしない。なんなら絶対にやめろ」という記載がある場合がある場合がほとんどですが、図書迷宮はあえてこの難しい「二人称」に挑戦し、作品への没入感を高めることに成功しています。いやぁ……創作について相当勉強している人じゃないと書けないですよコレ。

小説ではありませんが、一番近いと感じたのは「TRPG」をプレイする感覚です。
TRPGをやったことがない方でも、ナレーターが「あなたはこの世界における勇者です。ええと、あなたの名前は何でしたっけ?」とプレイヤーに対してキャラ名の入力を求めてくるようなゲームをやったことがあれば「図書迷宮」を読んだときに似たような感覚を受けるはずです。

つまり「自分が登場人物になりきって物語を楽しむ」というシミュレーション感覚を、一人称や三人称の小説よりも濃く楽しめるんです。これは今の時代に向いている書き方かもしれないですねぇ……。

ただし、「じゃあ私も二人称小説を書いてみようかな」という方がいるのであればあまりおススメはしません。

実は私も、思いつきで「二人称を試してみよう」と思い、仲間内に向けて小説を書いてみた経験があります。コレがかなり酷評された経験から言わせていただきますと、二人称小説は本当に難しいです。

なぜなら地の文で記述された主人公の思考と読者の考える主人公の思考が分離しやすいからです。

二人称小説は「他者(ゲームでいうナレーター役)によって主人公の思考が勝手に予想されて決められたように感じる」傾向が強いです。その結果、作品の読書中に、読者の脳内に三つの「主人公の思考」が生まれます。
1.「ナレーター役の考える主人公の思考(地の文)」
2.「作中主人公の実際の思考(不明)」
3.「主人公になりきった読者の思考(読み手のシミュレーション)」

上記の三つが常に一致しながら物語が展開しないかぎり「読者の没入度が著しく下がり、作者の中で物語が自己完結してしまう作品になる」可能性が非常に高くなります。
これはあまり出来が良くなかったノベルゲームが「選択肢として選べるセリフがどれも登場人物のテンションにマッチしているとは思えなかった」と言われてしまう現象と似ています。しかし、セリフに限らず地の文全てに技術を求められる二人称小説の難易度はより高いはずです。

この高い難易度を求められる二人称を「大長編」で描きながら、様々な読者から「違和感がない」と言わせる「図書迷宮」の小説的技術力……はかりしれません。

自分で名前を決められるRPGのように、主人公を「良い意味でクセがなく性格的個性をギリギリまで薄めている(といっても他のキャラとの比較や、演出でキャラは立っていますが)」状態を維持し続けることや、ナレーター役のキャラクターを「〇〇」にすることで限りなく三人称的に物語を進めることに成功していること……深く読めばもっとたくさんのギミックが詰められていると思います。

ポイント② 時間制限付き最強主人公の新しい形「記憶消失による知識・経験リセット」

ネタバレになるので深くは説明できませんが、図書迷宮の主人公は以下のような作品のメインキャラクターに似た性質を持っています。

・クリストファー・ノーラン監督(「ダンケルク」「インセプション」「ダークナイト」の映画監督)
の映画作品「メメント
・小川 洋子先生(妊娠カレンダーで芥川賞受賞した作家)
が書いた第一回本屋大賞受賞小説「博士の愛した数式

どちらかを観た、あるいは読んだことがある方ならお分かりいただけると思いますが、
この作品「一定条件を満たすと主人公に蓄積された知識とエピソード記憶が消失する」作品です。主人公の記憶は、たった「8時間」しか保てません。

例に挙げたような作品のように「何度も記憶リセットされることの面白さを感じる」タイプの小説ではありませんが、この足枷があることによって作品の面白さが倍加される仕組みになっています。

加えて、あまり深く言うとネタバレになるから言えないんですけど、
主人公は記憶消失の速度を早める代わりに「知識・能力の獲得を早めて急激な成長」が可能です。
読者は二人称文体によって主人公になった気分になっていますから、
どうやって制限に引っかからないように工夫しながらどの能力を高めればいいか」を考えている感覚になるんですよね。まさにゲームをプレイする感覚。

どうでもいいですけど「時間を巻き戻すことによってエピソード記憶を蓄積する弱小主人公のラノベ」が流行っている今、同じレーベルで「成長速度を早める代わりに記憶消失のリスクが高まる最強系主人公のラノベ」が出てるのって面白いなと思います。「真逆かよ!」という設定ですからね。
※正確には「図書迷宮」は最強系ではありません。

ポイント③ 膨大な設定を読者に理解させるためのシーンの順序や選択がすごい

「図書迷宮」
「図書館都市(アレクサンドリア)」
「薬草院(アポセカリア)」
「偉大な博士(ドクトルマグナ)」
「吸血鬼の真祖(ハイ・デイライトウォーカー)」
「吸知」……

町を歩く描写だけで小説一冊作れてしまう」ほどに詰め込まれた世界観で、ひっさしぶりに「観設定で殴ってくるタイプ」のライトノベルを読んだなぁと感じました。正直、読み終わったときに、ものすごく達成感を感じます。

こんだけ膨大な世界観設定を作って話に詰め込むこと自体すごいんですけど、より優れていると感じたのが「難しい設定を理解させる」ためのシーン選択です。

ただ……これはしゃべれない! 解説するとネタバレにつながってしまうので!!

「作者さんの脳内にはもっとたくさんこの世界の設定があるのにうまく取捨選択したなぁ」と、拍手したくなります。

設定を詰め込み過ぎてどうしても世界観設定集的な小説になってしまう」とお悩みのWeb小説家さんにはぜひ読んでほしいな、と思います。

ポイント④「どうやったらそんな文章が思いつくんだよ!」という天才的な表現の数々

「変わった書き方しているよ!」「設定が面白いよ!」というお話ばかりしてはいましたが、
この尖った設定を支えているのが「圧倒的な技術力」です。

ただ二人称小説や尖った設定のいずれかを「思いつくだけ」なら誰かがやっていた可能性はあります。
しかし、図書迷宮クラスに仕上げるには
まず、前提として三人称や一人称でしっかりとした文章が書ける」のは当然として、
「高い文章表現のセンス」が求められます。

ネタバレにならずに文章を引用するのは難しいのですが、
特に僕が感動したのは終盤の戦闘シーンにおいて、あるキャラクターがうまく呪文を言うことができなかったシーンのこの表現。

呪文を完成させようとした舌が、そこに存在しているべき口蓋を触り損ねて宙を舐めた。
MF文庫J 十字 静「図書迷宮」 p.449

こんな文章思いつきます!?
呪文が上手く言えなかった」ことをこんなに具体的に分かりやすく、しかも臨場感を伴って説明するなんてヤバいでしょ!?
上手く言えないことを表現するために「口の中で起きた具体的な舌の動き」をチョイスするなんて、普通は思いつかない。どんだけの読書量を積んだら、この表現をさらりと出せる執筆レベルにたどり着くことができるのでしょうか……しかも作者さんまだ20代ですからね。新人賞に応募したときは22歳だったらしいですし、色々な意味で規格外な作者さんですよ。

図書迷宮にはこれ以外にも「天才的な文章表現」がたくさん出てきます。
ラノベ的なカッコいい地の文の言い回しだけでなく、細かく散りばめられた地味な文章も本当に勉強になるのでぜひ読んでほしいと思います。

まとめ

上記に挙げたことだけでは「図書迷宮」の面白さを説明できません。
正直、ネタバレにならないように説明したので、
この作品の魅力を説明するために一番重要な
記憶に関するギミック」や「メタフィクション的な構造」について全く触れることができませんでした。ホントに読んでくれ。この記事は「何も説明していない」に近いんですよ。

そして、この小説こんだけ邪道的なファンタジー設定を詰め込んでおきながら、
大きな枠組みで説明すると「超王道ラブストーリー」なんです!!!

20歳を超えてから、ライトノベルに新鮮な面白さを感じることが少なくなりましたが本当に面白かった。下手したら「人生で一番面白いライトノベル」になるかもしれない。そんな作品です。

ぜひ皆さんにも読んでいただきたいと思います!

以上で紹介記事を終わります! 最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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